花橘55号 連載(3) 先輩セミナー 神山 明さん (68期、東海大学教養学部芸術学科教授)

先輩セミナー2004
―魅力と特色プラン委員会― 

開催日および講師紹介

① 6月19日(土)
 池田達郎さん(63期)ドキュメンタリー映画監督
② 6月26日(土)
 間瀬勝一さん(60期)横浜市芸術文化振興財団
 エグゼクティブディレクター
③ 7月3日(土)
 枝元なほみさん(70期)料理研究家
④ 7月10日(土)
 神山 明さん(68期)東海大学教養学部芸術学科教授
⑤ 9月11日(土)
 堀 潤さん(93期)NHKアナウンサー


神山 明さん(68期、東海大学教養学部芸術学科教授)

 僕が美術の道に進んだのは、平沼に入ったから、と言えます。高校に入る頃は鉄橋を作る技師とか、新聞社に入りたいとか思っていました。美術も好きだったので、美術部に入りました。今はどうなのか知りませんが、その頃美大を志望する者が10数名、音大志望者もその位。3年になると選択で8時間授業がありました。入るまで知らなかったんだけど、そういう芸術の盛んな学校に入り、よい仲間に恵まれたことが、僕が美術の道に進むことを決定づけた。
 芸術系に行こうと思ったら、どんどん成績は落ちた。1週間に8時間デッサンをやるわけですから、他の人はその間数学や英語をやっている。だから成績が落ちても、そういうもんだと思っていました。

 藝大に入ってデザインを専攻したわけですけど、美大に入って終わりかというと全然違って、卒業してから何をやっていくかということが問題なんです。僕は会社に入ってデザイナーになるのではなく、作家になる道を選んだ。そうすると捨てたはずの英語や社会が必要になることがある。受験で美術の勉強をしたことは何にも関係なくなる。美術の大学に入るにはデッサンができなくてはならない。でも卒業してから人にデッサンを見せるかというと、見せることはない。25歳30歳になって、高校の時英語の成績が良かったと言っても、「ああそうなの」で終わっちゃう。今、"何ができるか"、ということが問題なんです。
 (プロジェクターで、大学院修了から最近までの作品を映写、解説しながら自分の制作について)
 これは大学院の終了制作ですが、評判が良く大学買上げになった。でもそれは大学の中のことで、作品を作って神奈川県展では入選しても、中央の大きい公募展に出してもなかなか入選できなかった。

 30歳になった時、高校や大学でやってきたことは一切忘れて作品を作ろうと思いました。世の中で誰も見たことがない、自分も見たことがないものを作った。それがオリジナリティだと考えた。でもそれがいいのかどうか自分でもわからない。展覧会に出して賞を取って、これでいいんだと思って作品を作っていきました。
 見たことがないものを作ると言ったけれど、一方で全く見たことがないものが世の中にあるかというと、それもむずかしいかなということで、僕は作品のテーマとして、"歴史"ということを考えています。モチーフとして"月"という世界中の誰もが知っている、40万年の昔からあるゆる人間が知っているものを選んだ。それを見れば世界中のあらゆる人が同じことを感じるのではないかと考えたわけです。

 作家というのは定年はないけれど、いい作品を作り続けて人に作家と認められなければ作家とはいえないんです。一つ一つの作品に何か今まで見たことのない、経験したことがないものを作ろうとしています。
(部屋一杯に入っていて部屋の中には入れない作品、箱の中に入っている作品、のぞかなければ中が見えない作品、塔のような作品、等々)
 文系、理系という世界を捨てて美術の世界に入ったつもりだったが、美術の世界でオリジナリティを出そうとしたら、美術の世界の範囲の中だけではできない。僕の場合は歴史かもしれないし、他の人には宗教だったり、動物学かもしれない。
 2000年から2001年にかけて1年間フランスに留学して一番感じたことは、自分が日本に生まれた日本人でしかないということ。日本人が何を作っていったらいいのかずっと考えています。そういうことを考えるのに必要なことは文型思想だと思う。そういうところを掘り下げないと、オリジナリティは出てこない。年々そういうことを感じています。

(たくさんの作品を紹介していただいた中で、自分のオリジナリティ、日本人のオリジナリティを追求している神山さんの制作について、皆よくわかったと思います。作品、制作について、いくつも質問が出ました。)

【生徒の感想】

 「子供が『美術の道に進みたい』と言ったら、親はまず反対するべきだ」。神山さんの話で、一番印象に残った言葉です。この言葉を聞いて、美術の世界で生きていくのには並々ならぬ情熱がいること、その厳しさを知りました。そして、そんな中、美術の世界で活躍している神山明さんは、とてもすごい人だと思います。
 セミナーを受ける前は、美術の先生なのだから美術の道をすすめるのかと思っていたのですが、神山明さんは、現実的なことをズバズバとおっしゃっていて、そのおかげで美術の道に進むということの意味が判ったような気がします。そしてそれは、やはり神山明さん自身の美術への情熱の表れなのだと思いました。
 神山明さんの作品を通して聞いた話は、なにも美術や芸術に限ったことではないように思います。芸術についての話であると同時に、他のすべてにおいての考え方や姿勢に繋がるのではないかと思いました。そういった意味でも、今回この先輩セミナーを受けることができて良かったと感じました。

2022年03月15日|公開:公開